10分でわかる世界史Bの流れ!近世ヨーロッパ(2)〜商業革命と価格革命〜

大航海時代以降の世界一体化による3つの影響

【前回までのあらすじ】(1)大航海時代の幕開け

ポルトガルが大航海時代を始め、東回りでのインド航路を開発し、香辛料貿易を進めた。
一方のスペインは、西回りでのインド航路を開発しようとしていたが、偶然にも新大陸・アメリカ大陸を発見してしまう。そこで、アメリカ植民地経営に乗り出した。

大航海時代の幕開けによって、世界の物流規模・経済活動規模は広範囲に、さらに物流速度・経済活動速度は大幅に加速する。

そのことを如実に表す言葉が、「商業革命」と「価格革命」だ。この2つの単語について、詳しく解説していきたい。

商業革命とは?

商業革命」とは、端的にいうとヨーロッパにおける貿易構造が、大航海時代によって、北イタリア諸都市(地中海)を中心とした東方貿易から、スペイン・ポルトガル(大西洋)を中心とした海洋貿易へと移行した、ということ。

前回の記事でも説明した通り、ヨーロッパではそれまでアジアの特産物(香辛料など)は必ず地中海を通って輸入されていました。それが東方貿易です。

ですが、オスマン帝国がビザンツ帝国を滅ぼしたことで、地中海交易権を握り、高い関税をかけたことで、香辛料の輸入費が高騰します。そこで、新たな香辛料の輸入ルートとして、ポルトガルによる海洋貿易ルートが開拓されたわけです。

海洋貿易ルートの開拓成功によって、貿易の中心地が地中海から、大西洋に移るのは理解できるかと思います!
これが、商業革命です。ここからポルトガルの首都リスボンの経済は急速に発展していきます。

価格革命とは?

アメリカ植民地経営に乗り出したスペイン

彼らは、アメリカの開拓を進めていき、1545年にポトシ銀山を発見します。これはアメリカ大陸最大、当時の世界最大の銀産出量を誇った銀山です。

この銀山の経営をスペインが独占し、ヨーロッパに銀を大量輸送しました。銀は、当時の貨幣です。要するに銀山の発見は、文字通り「お金の山」を発見したことになります。

アメリカ大陸で発見された多量の銀が、急激にヨーロッパ市場に流れこんだことで、銀の価値は一気に下落します。貨幣の価値が下落すると、物価は上昇します(インフレ
当時のヨーロッパの物価は2〜3倍に急激に上昇したといいます。

この急激なインフレによって、ヨーロッパの封建社会の崩壊が決定的になります。
以前も解説しましたが、ヨーロッパの封建社会は十字軍以降の貨幣経済の普及によって、農奴に農作物を直接貢納させていた労働地代から、毎期決められた貨幣を支払う貨幣地代へと移行しています。

しかし、価格革命による急激なインフレによって、毎期貢納される貨幣の価値が下落してしまい、貨幣地代に依存していた封建領主は没落していきます。

価格革命による、インフレをわかりやすく解説します。商売人の立場で考えるとわかりやすいです。
あなたは小麦売りの少女。この時ポトシ銀山からの銀の大量輸送によって、1銀貨の価値が半分に下がったとします。
あなたはこれまで1銀貨=1kg小麦の表示価格で売っていましたが、銀貨の価値が半分になってしまったので1kgの小麦を売ることで得られる価値は半減していますよね。(getしたのは1銀貨だけど、その1銀貨の価値が減少しているので)

あなたも少女とはいえ商売人ですから、これまで通りの価値を得るために、2銀貨=1kg小麦に値上げするでしょう。
するとどうでしょう!銀の価値が半分に下落したことで、物価(モノの表示価格)は2倍に上昇しています。これが価格革命によるインフレです。

東西ヨーロッパの分業体制の確立(グーツヘルシャフト)

最後に、大航海時代によって東西ヨーロッパでの分業体制が出来上がったことについて解説しておきます。

大航海時代以降、西ヨーロッパでは商工業が発達していきます。貿易が盛んになったことで、農業をするより新しい製品を作ったり、新しい製品を流通させることの方が儲かるからです。

しかし人が生きていく上で、農作物は必要です。が、価格革命によって封建社会は崩壊し、西ヨーロッパでの農作物の生産量は需要に追いつかなくなっていきます。

そこで西ヨーロッパで必要な農作物は、エルベ川以東の東ヨーロッパ地域で作り、輸入することにしました。つまり、ヨーロッパの西と東で、商工業と農業という分業体制を作り上げたのです。

そんな東ヨーロッパでは、農作物の生産スピードを上げるために、グーツヘルシャフトという後進的な農業形態が出来上がります。

ここでは領主が、農民保有地を奪って直営地にし、農奴への支配を強化しました。まるで、古代の封建社会のようなものが、近世になって東ヨーロッパで蘇ったわけです。

国際分業は現代でも行われています。
カンボジアなどで作られた衣服を、我々日本人は格安で手にしています。
ですが彼らの労働環境は酷いモノです。先進国はますます富み、後進国の労働環境は酷くなる一方なのは、グーツヘルシャフトの時代から変わっていないのかもしれません。

10分でわかる世界史Bの流れ!近世ヨーロッパ(3)~ルネサンスの文化史~

2016.06.06